その時

住宅街を歩いていた。
14時46分ごろ。
さわっ、さわっ。
電線の揺れで気づき立ち止まる。
地震だ。


揺れは次第に大きくなっていく。
震源は遠いか?
地震の多い東京とは言えいつもとは違う予感がする。
少しして道路右側の4階建てのビルから6〜7人の中年男女が声を上げて飛びだしてきた。
何かの事務所だろうか。
仕事中のおじさん、おばさんといった感じだ。
道の反対側の2階建てアパートからもヤンキーな若いカップルが駆け出て来た。
二人とも同じような薄めのパジャマか、スウェットの様な上下を着てる。
ヤンキーと言っても、目を細めてボカシ観ればモザイクが消えて脳内補完で見えてはイケナイ物が丸見えになったような気がしてくる、ぐらいなヤンキー風味さ。
いや、よくわからんし。


自分も入れて総勢10人程度が路上に集まった。
ぐわん、ぐわん。
揺れはさらに大きく激しくなっていく。
おっとと。
動かずまっすぐ立つのが難しいほどだ。
道路が波打ち、電柱が折れるかヒビ割れしそうなほどしなってきた。
今までにあまり観た覚えのない光景だった。
さらに揺れる。
事務のおばさんが踏まれた餅のような声をあげた。
「ふやぁぁああー!」
おじさん達もどよめく。
ビルの上層の壁からパラパラッと粉が落ちてくる。
「いやん!こんなの初めてェーーー!!」
人と状況次第ではとっても魅惑的なセリフをおばさんが叫ぶ。
耳に残るから言うな!


最悪を予想して前後左右の高さのある建物、電柱に気を配る。
ヤンキーな女の子が、
「今お風呂に入ってたとこだから、パンツはかずに出て来ちゃったよぉ。」
と揺れながら言う。
そういえば長い茶髪は濡れている。
一緒にいるオトコは風呂に居たことを知ってるだろうし、いったい誰向けに説明してるのか?
この揺れの真っ最中に艶めかしいアピールなのだろうか。
よくわからないが呑気なセリフとまだ続く揺れとのギャップが面白くて三人で笑った。


ようやく長く続いた揺れもおさまってヤンキーなカップルはアパートに戻っていった。
一刻も早くパンツをはきたかったに違いない。
事務おばさん達と少しだけ雑談を交わしてその場を離れた。
しばらくの間は事務作業どころじゃないだろう。
その後予想以上に余震が連続する中、やっと家に戻り玄関を開けると爆風が吹き抜けたかのように家具が散乱して部屋は足の踏み場も無いほどだった。

「あひゃァ!こんなの初めてェーーー!!」